入社4年目で初めての結婚記念日の日、社内でトラブルが発生した。下手したら全員会社に泊まりになるかも知れないという修羅場。結婚記念日なので帰らしてくださいとは絶対に言えなかった。17時を回った頃、T課長が俺を呼びつけ、封筒を渡して、 「これをK物産に届けろ」 と言う。K物産は、隣の県にある得意先で、今から車で出ても20時までに着けるかどうかすら分からない。「届けたら直帰していいから」と言うが、直帰も何も、K物産に届けてから家まで帰ったら、きっと23時は過ぎるだろう。 文句を言いたかったが、 「わかりました」 と言って封筒を預かった。中身を見ようとすると 「中身は車の中で見ろ。さっさと行け!」 とつれないT課長。不満たらたらの声で「行ってきます」 と言うと、課内の同情の目に送られて駐車場へ向かった。車に乗り込み、封筒を開けるとそこには一枚の紙切れが。 「結婚記念日おめでとう。今日はこのまま帰りなさい」 会社に入って初めて泣いた。その翌年、T課長は実家の家業を継ぐために退社した。送別会の席でお礼を言ったら 「そんなことあったか?」ととぼけていた。T課長、お元気でおられるだろうか。こんな人格者になりたいと思う 伊都会館 林恵造でした